RTK を介したシグナル伝達では、増殖因子などの特異的なリガンドが RTK の細胞外領域へ結合することにより、受容体の二量体化(または多量体化)が誘導され、シグナルが迅速に伝達されます。つまり、RTKへのリガンドの結合とその結果誘導される二量体化こそが、外部シグナルが細胞外から細胞内へと中継される最初のステップであるということになります。
これまでの細胞内タンパク質の相互作用を利用したアッセイ系では、受容体二量体化を正確にモニタリングすることが困難でありました。EFC技術を応用したDiscoveRx社のPathHunter受容体二量体化アッセイを用いれば、細胞表面の受容体二量体化を直接的に測定することができます。
Fig.1. PathHunter受容体型チロシンキナーゼ(RTK)二量体化アッセイでは、ターゲット受容体の一方にはProLink™ (PK) 、一方にはEnzyme Acceptor (EA) をタグ付けした受容体を発現させています。リガンド結合によってRTKの二量体化が起こり、続いて細胞内部ではチロシンキナーゼ部位のリン酸化が起こります。それに伴い立体的に隣接したPKとEAが結合することによりβ-Galの活性型酵素が再構成されます。β-Gal活性によって加水分解された基質の化学発光シグナルを測定することにより、RTKに対する試験物質の作用を同定します。
今回はDiscoveRx社のPathHunter受容体二量体化アッセイを、エリスロポエチン(EPO)および代替リガンドによるエリスロポエチン受容体(EpoR)の二量体化の確認に利用した文献をご紹介させていただきます。
Tuning Cytokine Receptor Signaling by Re-orienting Dimer Geometry with Surrogate Ligands
Moraga et al., Cell. 2015 Mar 12;160(6):1196-1208
本報告では、エリスロポエチン(EPO)およびエリスロポエチン受容体(EpoR)の二重特異性抗体(DA) を代替リガンドとして利用し、EpoRの二量体化を誘導させてシグナル活性を評価した。DAによってEpoR二量体の向きと距離が変わり、その結果シグナル伝達活性の度合いを調節することができた。DAを代替リガンドとして用いることにより、遺伝子発現プロファイルやシグナル経路の活性化をバイアスしたり、変化されることが可能であることが確認された。
シグナル伝達を引き起こさないDAを用いて、恒常的活性化型JAK2V617F変異による骨髄増殖性腫瘍を持つ患者の赤血球前駆体の増殖を阻害することに成功した。このように、外部の代替リガンドによって、受容体を非活性型の二量体化へと再形成させることで、細胞間の発がん性変異によるリガンド非依存的受容体活性を阻害することができた。このようなアプローチを応用することで、二量体化受容体系シグナルの微調整を可能とする新薬の開発が期待されるであろう。
Fig.2. EPOおよび二重特異性抗体(DA)を用いて、D. EpoRの二量体化(PathHunter二量体化アッセイ) E. EpoRのリン酸化 F. STAT5の活性化 G. Ba/F3細胞増殖 を確認した。いずれのDAもEpoRの二量体化を誘導するが、以降のシグナル活性の度合いに違いがみられた。
[結論]
- 代替リガンドによって受容体二量体構造を変化させて、二量体の向きや距離を変化させる(再形成)ことによりシグナル活性を調節することができる
- 受容体二量体構造を変化させることでシグナル活性を調節することができる二重特性抗体は、細胞間の発がん性変異によるリガンド非依存的受容体活性を阻害することができる
RTK二量体化アッセイのターゲットリスト、詳細はこちらから。
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