3/03/2017

No.225 受容体型チロシンキナーゼ二量体化アッセイの応用例

本日はこれまでのブログ記事の中でも人気の高い記事の一つ、PathHunter®受容体型チロシンキナーゼ二量体化アッセイをご紹介したいと思います。

受容体型チロシンキナーゼ(RTK)は細胞表面に存在する受容体キナーゼの一種であります。細胞外のシグナルをリガンドの結合という形で受け取り、タンパク質鎖中にある特異的なチロシンアミノ酸をリン酸化することによって、細胞内シグナル伝達系にそのシグナルを中継する役割を果たします。RTKは、細胞の最も基本的な活動である増殖・分化・生存・代謝・移動を制御し、さまざまな組織や器官の発達と生理応答、造血や免疫応答など高次の生命現象を制御するという重要な役割を担っており、分子標的薬の創薬ターゲットとして近年注目を集めています。

RTK を介したシグナル伝達では、増殖因子などの特異的なリガンドが RTK の細胞外領域へ結合することにより、受容体の二量体化(または多量体化)が誘導され、シグナルが迅速に伝達されます。つまり、RTKへのリガンドの結合とその結果誘導される二量体化こそが、外部シグナルが細胞外から細胞内へと中継される最初のステップであるということになります。

これまでの細胞内タンパク質の相互作用を利用したアッセイ系では、受容体二量体化を正確にモニタリングすることが困難であります。DiscoverX社のPathHunter®受容体型チロシンキナーゼ二量体化アッセイを用いれば、細胞表面のRTKの二量体化を直接的に測定することができます。

チロシンキナーゼ二量体化アッセイ原理:

本日は、PathHunter受容体二量体化アッセイを、エリスロポエチン(EPO)および代替リガンドによるエリスロポエチン受容体(EpoR)の二量体化の確認に利用した文献をご紹介させていただきます。

【文献紹介】
Tuning Cytokine Receptor Signaling by Re-orienting Dimer Geometry with Surrogate Ligands

Moraga et al., Cell. 2015 Mar 12;160(6):1196-1208

本報告では、エリスロポエチン(EPO)およびエリスロポエチン受容体(EpoR)の二重特異性抗体(DA) を代替リガンドとして利用し、EpoRの二量体化を誘導させてシグナル活性を評価した。DAによってEpoR二量体の向きと距離が変わり、その結果シグナル伝達活性の度合いを調節することができた。DAを代替リガンドとして用いることにより、遺伝子発現プロファイルやシグナル経路の活性化をバイアスしたり、変化されることが可能であることが確認された。

シグナル伝達を引き起こさないDAを用いて、恒常的活性化型JAK2V617F変異による骨髄増殖性腫瘍を持つ患者の赤血球前駆体の増殖を阻害することに成功した。このように、外部の代替リガンドによって、受容体を非活性型の二量体化へと再形成させることで、細胞間の発がん性変異によるリガンド非依存的受容体活性を阻害することができた。このようなアプローチを応用することで、二量体化受容体系シグナルの微調整を可能とする新薬の開発が期待されるであろう。


Fig.2. EPOおよび二重特異性抗体(DA)を用いて、D. EpoRの二量体化(PathHunter二量体化アッセイ) E. EpoRのリン酸化 F. STAT5の活性化 G. Ba/F3細胞増殖 を確認した。いずれのDAもEpoRの二量体化を誘導するが、以降のシグナル活性の度合いに違いがみられた。

[結論]
● 代替リガンドによって受容体二量体構造を変化させて、二量体の向きや距離を変化させる(再形成)ことによりシグナル活性を調節することができる。
● 受容体二量体構造を変化させることでシグナル活性を調節することができる二重特性抗体は、細胞間の発がん性変異によるリガンド非依存的受容体活性を阻害することができる。

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